第一章 全国転勤族だった私がエリア職を選ぶまで

これは全国転勤の会社に勤めたある会社員が、とある理由で転勤なしの道を選ぶ物語である。
全国転勤のある商社へ入社した理由

私は売上2兆円を超える全国転勤のある商社へ入社しました。
就職活動では、全国転勤があることをデメリットとは考えていませんでした。
むしろ、「せっかく日本に生まれたのだから、いろいろな土地で生活し、さまざまな価値観に触れながら成長したい」という思いの方が強かったからです。
北海道と沖縄では文化も食も違う。
都市部と地方でも、人との距離感や生活スタイルはまったく異なります。
学生だった私は、「転勤は人生経験を増やせる最高の制度」だと思っていました。
さらに、会社の社宅制度が非常に充実していたことも魅力でした。
家賃の負担が少なく、その分を貯金や旅行に回せる。
若いうちからさまざまな土地で生活できる環境は、とても恵まれていると感じていました。
実際、独身時代の私は全国転勤を前向きに楽しんでいました。
東京・千葉・大阪・福岡。転勤生活は想像以上に充実していた

入社後は
- 東京
- 千葉
- 大阪
- 福岡
と転勤を経験しました。
独身時代の転勤は本当に楽しかったです。
引っ越しの準備は大変でしたが、費用は基本的に会社負担。
新しい街を開拓し、おいしい飲食店を探し、その土地ならではの文化に触れる。
休日になると観光地へ出掛け、「転勤って悪くないな」と本気で思っていました。
環境が変わるたびに新しい出会いがあり、仕事でも経験値が増えていく。
全国転勤は自分を成長させてくれる制度だと感じていました。
当時は、将来エリア職を選ぶなんて想像もしていませんでした。
家族ができると、転勤の意味は大きく変わる

しかし、結婚し子どもが生まれると、転勤の意味は大きく変わりました。
私たち家族は
- 私(33歳)
- 妻(33歳)
- 長女(8歳)
- 次女(3歳)
の4人家族です。
独身時代は、自分一人が荷物をまとめれば終わっていた引っ越しも、家族が増えるとそうはいきません。
保育園の手続き。
妻の仕事。
子どもの友達。
病院探し。
生活用品の買い替え。
家具の配置。
地域の情報収集。
「引っ越す」という一言では済まないほど、多くの準備と調整が必要になります。
特に子どもが小さい家庭では、転勤は家族全員の生活を一変させる出来事でした。
大阪から福岡への転勤は、今までの10倍大変だった

私が29歳のとき、大阪から福岡への転勤辞令を受けました。
この転勤は、それまで経験してきた転勤とはまったく違いました。
独身時代なら、自分の荷物をまとめれば終わっていた引っ越し。
しかし今回は違います。
家族全員が生活を変えなければならない。
子どもは保育園を転園しなければならず、妻の仕事にも影響が出る。
家具や家電だけではなく、家族の人生そのものを運ぶような感覚でした。
正直なところ、大阪から福岡への転勤は、独身時代の転勤と比べて10倍以上大変だったと思います。
それでも当時は、「これも全国転勤の会社に入社した以上、仕方がない」と自分に言い聞かせていました。
しかし、この転勤が、後に私の人生を大きく変える出来事につながるとは、このときはまだ想像もしていませんでした。
第二章 育休を希望していたのに大阪から九州への転勤辞令

2023年、私たち夫婦に第二子を授かることが分かりました。
新しい家族が増える喜びと同時に、私は一つ決めていたことがあります。
それは、「夫婦で育児休業を取得し、家族で新しい命を迎えたい」ということでした。
この考えは、仕事に影響が出ないよう、妊娠が分かった段階ですぐに上司へ相談していました。
しかし、その数か月後。
私のもとへ届いたのは、まったく予想していなかった一通の辞令でした。
「九州への転勤。」
この一枚の辞令が、私たち家族の人生を大きく動かすことになります。
4歳の娘の涙で、転勤を家族の問題として考え始めた

2023年、大阪から福岡へ異動したとき、長女のこはるは4歳でした。友達と離れるのが悲しくても、「パパと離れる方が嫌」という気持ちで、家族みんなで福岡へ来てくれました。
子どもは大人が思っている以上に新しい環境へ順応します。こはるも福岡で友達をつくり、妹を溺愛するお姉ちゃんになりました。
でも、切り替えが早いから何度でも引っ越させてええ、という話ではありません。子どもが頑張って受け入れてくれたことに、親が甘え続けるのは違う。僕の中で、転勤に対する考え方が少しずつ変わっていきました。
2026年に迫っていた物流職への復帰と、再転勤の可能性

会社には、営業へ職種変更した場合、3年後に元の物流職へ戻る制度がありました。僕は2026年に物流へ戻る約束でしたが、そのタイミングで勤務地が変わる可能性は高いと考えていました。
物流へ戻れるなら、当時の制度でも転勤なしの職掌へ変えるつもりでした。もし約束どおり物流へ戻れず、営業のままなら転職も考えていました。僕にとって会社の制度は社員との約束です。それが守られない会社で、家族の将来まで預け続けるのは難しいと思っていたからです。
2025年、妻と話し合って「転勤なし」を選んだ

転機は2025年4月でした。会社から、2026年4月に転勤あり・なしの職掌ルールを変更するという案内が出たのです。
その月のうちに妻と話し合い、僕は転勤なしへ進むことを決めました。手続き自体は社内システムを数回操作する程度。でも、そのクリックに家族4人の生活が乗っていると思うと、パソコンのマウスが急にダンベルくらい重く感じました。
上司へ伝えたのは「夫婦とも働き続けるため」
2025年5月、上司には次のように説明しました。
現時点で単身赴任は考えていません。次女が保育園を卒園するまで、まだ5年あります。その間に転勤すると、すぐに転園できず、夫婦のどちらかが退職する可能性があります。育児に目途が立つまでは転勤なしにして、二人とも今の会社で働ける環境を守りたいです。
年収が下がることだけを見れば、損に見えます。ただ、転勤によって妻か僕が仕事を辞めれば、世帯収入への影響は100万円では済まないかもしれません。転勤なしを選ぶことは、家族との時間を守るだけでなく、共働きを続けるための家計防衛でもありました。
年収は約100万円減。それでも後悔していない

転勤なしへの変更で、僕の年収は約100万円下がる見込みです。100万円は、笑って流せる金額ではありません。毎年ちょっとええ家電が何台も買える。冷蔵庫と洗濯機とテレビが肩を組んで去っていくような金額です。
さらに住居費も大きく変わりました。以前の社宅費は月約2万4,000円。現在の住宅ローンは月約13万円で、固定資産税は年約24万円です。前年所得の影響で、保育園代が月約7万5,000円だった時期もあります。
家や車といった大きな買い物が続き、普段の支出まで少し緩くなった点は反省しています。転勤なしを選んだから家計が自動的に安定するわけではなく、固定費と日常支出は今まで以上に管理しないといけません。
それでも、年収100万円と引き換えに得た「いつ転勤を命じられるかと怯えなくていい安心感」は、わが家にとって非常に大きいものでした。
5,500万円の中古戸建てを買い、「ここで暮らす」と決めた

転勤なしを決めた後、2025年9月に福岡で約5,500万円の中古戸建てを購入しました。借入額は約5,220万円。47年ローンです。
この家は長女自身が「ここがいい」と選んだ家でした。ただし、それまでの小学校とは学区が違ったため、結果としてもう一度転校することになりました。
「パパとママ、これからは引っ越しをしなくてもよくなったよ」と伝えると、長女はとても喜びました。前の友達にも会える距離だったので、大阪から福岡へ移ったときより前向きに受け止めてくれていました。
それでも、最後の学童からの帰り道、娘は大泣きしました。その姿を見た日に、僕は心から思いました。
これで最後にしよう。もう親の仕事の都合で、娘の居場所を何度も変えない。
5,500万円という金額だけなら、もっと安い選択肢もありました。それでもこの家を買った理由は、建物だけでなく、保育園・仕事・通学・地域とのつながりを含めて、家族の生活基盤をここにつくりたかったからです。
購入後の本音や費用、住んで分かった注意点は、築13年の中古セキスイハイムを買った本音レビューで詳しくまとめています。
転勤なしを選んで、仕事と暮らしはどう変わったか

転勤の恐怖から解放された
一番大きい変化は、「次はどこへ行かされるんやろ」という恐怖が消えたことです。幼い子どもがいる社員に遠方への転勤辞令が出た話を聞くと、今でも自分のことのようにぞっとします。同時に、あのとき転勤なしを選んだ意味を再確認します。
会社の評価だけが人生の点数ではなくなった
以前は「絶対に高評価をもらわなければ」と肩に力が入っていました。今は、会社員として上を目指す気持ちを持ちながらも、会社の評価だけで人生全部を採点しなくなりました。
家族と暮らすこと、地域と関わること、自分で将来の仕事をつくること。評価軸が増えたことで、以前より落ち着いて仕事へ向き合えています。
家を買い、地域の一員になった
定住を決めてから、ご近所や地域との関係も意識するようになりました。保護者会や地域行事へ参加し、娘たちの成長を見守ってくれる地域へ、自分も少しずつ返していきたいと思っています。
中古戸建てへ入居して感じた距離感は、中古戸建てのご近所付き合いについての記事で紹介しています。
今は、転勤ありへ戻るつもりは100%ない

上司へ意思を伝えた当時は、「子育てが一段落したら転勤ありへ戻し、さらに出世したい」と考えていました。
しかし、今は転勤ありへ戻る考えは100%ありません。今の生活を手放して単身赴任する未来が、まったく見えなくなったからです。
もちろん、転勤なしを選べば誰でも正解になるとは思いません。全国を飛び回る働き方が合う人もいれば、単身赴任を選ぶ家族もいます。僕の選択を、そのまま他の家庭へ貼り付けることはできません。
全国転勤に悩む人へ|他人の正解をコピーしない

全国転勤に悩んでいるなら、まず自分と家族の優先順位を書き出してみてください。収入、出世、仕事内容、夫婦の仕事、子どもの環境、親との距離。全部を同時に満点へするのは、たぶん無理です。
- 自分は何を守りたいのか
- その優先順位どおりに生きると、何が障害になるのか
- その障害を乗り越える力や準備が、自分にあるのか
この3つを考えたうえで、自分の人生を選ぶしかありません。他人が転勤したから。流行っている働き方だから。会社にそう言われたから。そんな他人軸だけで決めると、どの道へ進んでも後悔が残る可能性があります。
まとめ|家を買った理由は「自分の人生の居場所を作るため」

年収は約100万円減り、社宅より住居費も大幅に増えました。それでも僕は、転勤なしを選び、5,500万円の中古戸建てを買ったことを後悔していません。
まだ本当の正解は未来にしかないのかもしれません。でも、今の家で家族と安定した生活を送れることは、本当に幸せです。
僕が家を買った理由を一言で言うなら、「自分の人生の居場所を作るために」です。
何を後悔と呼ぶのかを決めるのも、自分自身。あの保育園からの帰り道に流れた娘の涙を、最後の引っ越しの涙にする。その決断を守りながら、これからも家族4人で暮らしていきます。


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